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ハァハァハァ。
ハァハァハァハァ。
ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクン、と壊れかけた体に不釣合いなほど速く、心臓は脈打っていた。
「私、生きている」 ふるえる声。
命を刻む心臓の鼓動を確かめるように、胸を両手で押さえた。
「生きている……」
自分の『生』を噛み締めて、少女は周りを見渡す。
誰もいない。誰も追ってはこない。
一瞬安堵した表情を刻んだあと、少女は考える。
「でも、でも」
転んでしまうまで、必死で走っていた。
自分を追う男たちから逃げるために、無我夢中で逃げていた。
「宵ちゃん。宵ちゃん?」
小さくつぶやく。
ここがどこだか、少女には分からなかった。
2人で固く手を繋ぎ、逃げてきたはずだった。
自分の手を引いて前を走っていたはずの少女は、いつの間にか忽然(こつぜん)と消えていた。何処にもいない。
そもそも宵とは誰だったか。自分とは誰だったか。
少女は思い出せなくなっていた。
赤い色が目の前で広がって。それから……。
必死に記憶をたどる。
だが、思い出そうとすればするほど、恐怖が込み上げてきて気が遠退いていく。
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