26人が本棚に入れています
本棚に追加
/97ページ
ぐるぐると終わりのない思考を巡らせているうちに、僅かな時が経った。
辺りは夜になってしまったようだ。闇に閉ざされた樹海は恐怖そのもの。
「怖い。怖い。暗いのはいや」
発作のように恐怖が襲いかかる。
その時、真っ暗闇で何も見えないはずの視界に光が見えた。
先程、視界を掠めた白い物があったことを思い出した。
そこを凝視し、先刻見えた白い物の正体を知る。
それは、咲き誇る一輪の白い花であった。
這うようにして、これ以上に服が汚れるのも構わず花の所へ進んだ。
「私は、あの花を知っている?」
危険な。でも、近くに行かずにはいられない何かが、その花にはあった。
あの花が欲しい。
そう、記憶が混乱する中で何か魔に魅入られたように、少女の心が花を欲していた。
懐かしい匂いがする。とても、とても懐かしい香り。
最初のコメントを投稿しよう!