†墓に咲く、真っ白な花嫁†

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「そうだわ。私はこの花を探していたのだわ」  ただ一箇所、白い花の咲く場所だけは空間が切り取られたかのように、空から僅かに月明かりが差していた。  降りしきる雨のせいで、雨雲が月を覆っているのか、その光はか弱い。  それでも、この禁断の地でそこだけに光が見えた。  その中に咲く白い花は、微かな月光を反射して純白に輝いていた。  自ら光っているのかもしれぬと思えるほど、その白が眩しかった。  少女にとって唯一の希望の光だった。  手を伸ばす。  それを目にした瞬間、なぜか枯れたはずの涙が頬を濡らした。  初めて訪れた場所でしかないのに。  そして、禁断の地と呼ばれるほど恐ろしい場所なのに。  少女は胸に込み上げるような懐かしさに駆られていた。  記憶が曖昧になり、混乱しているのかと思った。  そして気が付いた。  花は、古ぼけた小さな石碑の前に咲いていた。なんと読むかも分からない、読解不能の文字が並ぶ不思議な石碑の傍らに、その花は咲いていた。  純白に光る、穢れを知らぬ花弁。その美しさと相反するような棘が、茎には無数にある。 「私は帰ってきたわ。約束の通り、貴方のもとへ。愛しい、お方」  自分の口から出た言葉が、自分のものではないようだった。  少女は自分が何を口走ったのか、理解していないようだった。  真っ白で純潔な名も知らぬ花。  なぜか、とても愛おしい。  愛しいとはこういう気持ちなのか、と初めて知った気がした。  これも、この地の魔力のせいなのか。
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