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「おとなしくしないか! 女」
兵士は強引に女性を掴み、床に投げ出した。
「な、なんということを。私は巫女です。あなたのような野蛮な男が触れていい存在ではない」
「たった今からお前は奴隷なんだよ! 献上される生け贄の分際で!! 口答えするな。この国はな、もう俺たちのモンなんだからよぉ」
「奴隷なんて……いや。助けて、誰か助けて!」
叫び声をあげる女性は腹を殴られて気を失った。
「うるさい女だ。そいつをさっさっと外へ運べ!」
滅びゆく国の大神殿。その一室。
手足の自由を奪われた女性が、兵士たちに担がれて連れ去られていく。
無残に命を奪われた死体が床に転がっていた。何体もの血に染まった亡き骸は目を見開き、すさまじい形相で時を止めている。
室内に生きた人の気配が消えた。だが、依然として神殿内には数多くの敵兵がいる。
遠くで、物が壊れる音、人の叫び声がこだましていた。
「あ、いや。恐い、恐い。宵(よい)ちゃん」
「しいっ。静にして」
小さな、搾り出すような声で注意する。
戸棚の中には、未だ敵兵に発見されていない2人の少女がいた。互いに手を握り合って震えている。
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