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「あれの眠った場所で拾った。約束を交わした、あの地で。今日まで気が遠くなるほど待たされた。出会いとは突然なものだな」
セルシムは信じがたいとでも言いたげな様子だった。
「そ、それでは……しかし、どうするのですか? その娘は人間なのでしょう。旦那様」
「そのようだ。だから困っているんじゃないか。魂は間違いなく、わたしのマグダレナなのに」
「まさか!」 セルシムは絶句した。 「魂。そんなものが見えるのですか!」
「見えるよ。生き物には魂があるんだ。お前にはまだ見えないのか?」
「いえいえ。見えませんよ。おそらく一生」
「まぁいい。セルシム、事情を伝えたところで、風呂は用意してある? まずは、これの汚れを取ってしまわないと」
イークウォルは少女を落とさないよう注意し、纏っているマントを片手で僅かにずらしてみせた。
その腕に抱いている幼い少女はボロ雑巾のような身なりで気を失っていた。
垣間見える少女の体。血の香りは、先程よりも濃厚に空中を漂っている。
「なんと、嘆かわしい。どんな状況で拾われましたのか。これほど汚れて!」
「だろう? このままではお前の体にも毒だ。若い娘の血の香りなど、老いた身にはきつかろうに」
イークウォルの海のように青い瞳が、セルシムの皺に埋もれる茶色の瞳をからかうように覗き込んだ。
老執事はうろたえた。図星を突かれたのだ。
くるん、と伸びた形の良い口髭を無意識にさする。それが、決まりの悪いときに行うセルシムの癖だった。
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