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ふと、雷が鳴った。
閃光が辺り一帯を照らしてから、少し送れて轟音が唸りをあげる。
稲妻が落ちたのだ。メラメラと黒煙が上がった。
イークウォルは窓から見える一面の樹海、その一角に目をやる。
激しく続く閃光が、窓から差し込んで部屋を。そして、館の主を照らす。
ガラスに反射したイークウォルの容貌。
それはこの世のモノではないような壮絶な造形。
色の深い灰燼のような髪。緩く後ろで一つに束ねた髪は腰に触れるほど長く、くすんだ白銀糸のきらめきを放つ。
肌は舞い落ちる雪よりも白い。
そして、微かに開かれた赤い唇の柔いつやめき。
伏せがちな瞼と睫毛の得も言われぬ稜線。
なにもかもを吸い込んでしまいそうな海の青を宿したその瞳。
感情を表さない冷たい人形のような、それでいて瞳の奥底に眠れる何かを秘めている。
どれをとっても並みの造形ではなく、幾星霜と続く時代のどの彫刻家にも造りえないであろう美貌を呈していた。
己を映した窓。イークウォルは、さも興味が無さそうに視線をすっと遠退かせて、部屋を後にした。
階段を降りきったところで、しわがれた声がイークウォルを呼び止めた。
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