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『なんなんだ……なんなんだ、てめえらはよォ!』
「おい、姉ちゃん。もう一度聞くぜ」
悪魔が激昂するのを無視して、男は女性に背を向けたまま、後ろを振り返る。
「死にたくないと言ったのは本心か?」
女性は毅然とした表情で男の目を真っ直ぐに見つめる。もうその目に迷いは、無い。
「私は死にたくない……私は、生きたい!」
『もう許さねェ! てめえら全員、ブチブチブチ殺してやらァァァァッ!!』
今度こそ、我を忘れるほどに怒り狂った悪魔が、男と女性に突進してくる。
「了解。アンタの本心、確(しか)と聞き届けた」
『皆殺しだァァァァァッ!!!』
悪魔が右腕を振り上げる。このままでは二人とも物言わぬ肉塊となってしまうだろう。
しかし、悪魔が腕に力を込め、それが爆発しようとした瞬間。
男の姿が消えた。
否、消えたのは男だけではない。
『なッ……!? なッ、う、腕がァァァッ!!』
先程まで振り上げていた悪魔の腕が肩口から綺麗に消失していた。
遅れて、肩から赤黒いものが噴出し、コンクリート塀にサイケデリックなアートを描く。噴出したものは泥のように粘性が高く、人間の血液とは全く、異なっていた。
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