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「よっ、と」
民家の屋根から飛び降り、未だ戦いの痕跡が生々しく残る道路へと着地。
道路脇の塀は壊れ、悪魔の赤黒い体液が辺りを濡らしている。しかし、悪魔の亡骸は見当たらない。
ばりばりと、大型の肉食獣が肉を喰らっている時のような音だけが閑静な住宅街に響いていた。
「残りの後始末は塀と血痕か……面倒臭いな」
アイツに【人払い】を発動させているとはいえ、直す手間を考えると気が滅入る。
アイツは、殺人現場のような血溜まりの中、俺に背を向けて胡座をかいていた。
「む、存外早かったのう、ヌシよ」
咀嚼音が止まり、アイツが後ろを振り向いて俺を見た。
張りのある唇の周りは、まるで幼児が食事をしたあとのように、赤色で汚れていた。
だがそれは、オムライスにかけられたケチャップではなく、生物の血液だ。
両手にはスプーンとフォークの代わりに紫の肉塊を持っている。
「まあ、公園のベンチに寝かせてきただけだしな」
悪魔に襲われていた女性は、法術で眠らせた後、【人払い】の範囲外に移動させた。
今の季節、夜でもさほど気温は下がらないし、周辺に悪魔の気配は無いので、また襲われるようなことも無い。
近くに交番があったので、朝日が昇る前にでも発見してもらえるだろう。
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