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夜の住宅街を二つの影が走っている。影と影の距離は約10メートル。
前を走っているのは女性だ。歳は二十代も終わりといったところ。その顔は走ったことでの疲労、それと非日常を思わせる恐怖によって歪んでいた。
女性は走りながら後方を振り向いた。先程から自分を追っている存在を認めたくないがゆえに。夢であってほしいと願いながら。
しかし現実の光景は女性の望みをあっけなく打ち砕いた。
背後に迫るは異形。閑静な住宅街には不釣り合いなほど、その影は大きい。いや、異様なのは大きさだけではない。
その姿は人間を無理矢理に引き伸ばしたようでありながら、肌はどす黒い紫色。頭には山羊のような角、爪は1メートルほどもあり、それは生き物の身体の一部というより鋭利な刃物を思わせる。
化け物としか言い様がない。だが、あえて別の表現をするのだとしたら。
そう、その異形はまさに
“悪魔”……と呼べるだろう。
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