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悪魔の姿を確認し、その姿に戦慄した女性はまた顔を前方へと向けた。道はひたすらに暗く、静寂に満ちている。
(……おかしい! いくらこんな時間でも車一台通らないなんて!)
悪魔とはまた違った異常に気付き、恐怖の重圧に耐えきれなくなった女性の口は自然に叫び声をあげていた。
「誰か! 誰か助けて!」
しかし、その声に応えたのは人間ではなかった。
『無駄だニンゲン。お前には【対外認識攪乱】、俺を中心に【人払い】を掛けてある。どれだけ叫ぼうと誰も来ないし、気付きもしないんだよォ! ゲハハハハ!』
悪魔が下卑た笑い声をあげる。その声は男性のもののようにも聞こえるが、人間には畏怖と絶望を抱かせるだろう。
一人の人間と一体の異形は夜の住宅街を走り続ける。この奇妙で異常で凄惨で、そして残酷な追いかけっこはいつまで続くのだろうか。
(なんで……、なんでこんなことになってしまったんだろう)
女性は恐怖に駆られ、必死に足を前へ前へと出しながら、自分が陥った、この、不幸な状況に至る経緯を思い出していた。
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