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思い返してみても、女性は、自分が何故あんな化け物に追われているのかは全く分からなかった。
「ハァ……っく……ハァ」
走り続けたせいで女性の息もあがってきている。酔いはほとんど覚めていたとはいえ、暴飲を繰り返していたため、疲労もたまりやすい。
「あっ……痛っ!」
とうとう、女性は足をもつれさせ、転んでしまった。すぐに起き上がろうとするが、一度挫けた精神はそう簡単には戻らない。足がすくみ、再び地面に崩れ落ちてしまった。
もう逃げられない。後ろを振り向くと、悪魔は悠々と女性に近付いてきた。
『なんだァ? もう終わりか、ニンゲン。もっと恐怖に満ちた顔を見ていたかったんだがなァ。終わりなら仕方がないな。
じゃあ、死のうか』
悪魔が、長大な爪のついた大木のように太い腕を振り上げる。
(私は……死ぬの?)
女性には悪魔の動きがスローモーションのように見えていた。
(嫌だよ、死にたくないよ)
女性の目から涙が溢れる。女性に向けられた殺意が膨れあがっていく。
(死にたくない……死にたくない! 死にたくない! 死にたくない! 死にたくない! 死にたくない! 死にたくない! 死にたくない! 死にたくない! 死にたくない!!!)
殺意が最高潮まで達する。
「死にたくないっ……よぉ……」
嗚咽とともに声が発せられ、それと同時に
殺意が、降り下ろされた。
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