少年の宝物

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ここに、バスに揺られ、帰路に向かう一人の少年がいる。 少年の瞳は暗い。 今にも眠りについてしまうような、今にも消えてしまいそうな、そんな悲しい雰囲気を纏い続けている。 瞳は動くことなく、ただぼんやりと、足元に視線を落としていた。 少年は一生かと思える程にゆっくりと、それはゆっくりと、まばたきをした。 目を開く頃には、少年がバスを降りるバス停はすでに2つ過ぎていた。見慣れない景色、移り行く風景、差し込む日の光り、しかし、そんな事は少年にはどうでも良かった。 少年は大切な、かけがえのない宝物を失ってしまっていたのだ。 それは数十分前に遡る。 少年の目に映ったのは「Sold Out」の文字だ。 買い物をしていればどこでも見ることの出来るありふれた風景だが、少年にとっては特別大問題だ。 少年にとってそれは初恋と呼べるものだ。 名前も知らない、誰かも知れない。 たった『1枚』の『少女』の『絵画』 その日も授業が終わり、少年の足は弾んでいた。 学校からバス停までは15分も歩かなければいけない。1本道で面白みに欠け、こう毎日の事だと気怠くなってしまうものだ。しかし少年の足は弾み、表情は明るさに満ちている。 少年には誰にも教えていない秘密の裏路地がある。 裏路地とはそれだけでなかなか入っては行けないものだが、いやはや少年の好奇心は強かった。 見慣れた景色と15分もかかる片道は、少年の心を闇の裏路地に向かわせるには充分過ぎたのだ。 しかし1歩入り込んだはいいが、少年は正直ちょっと怖かった。だが少年の好奇心は全然負けなかった。 少しずつ少しずつ、じりじりとじりじりと、少年は奥へ奥へと進んだ。
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