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そして出会った、一人の少女。
少年は頬を一瞬で赤らめた。その瞳、その鼻、その唇、その手、その肌、少女を創るそれら全てが美しく、少年の心を奪った。
まさに一目惚れだろう。
少年は腰が抜けてしまったように立ちすくんだ。足は力が入らず体は少し小刻みに揺れているが、少年の瞳はまっすぐ少女を見つめている。
それから毎日、毎日、毎日、毎日と、気怠くなるような一本道を少年は誰よりも爽快に歩いた。
最初は怖かった裏路地も今やなんの苦もなく足速にどんどん突き進む。
そう、これは痛い勘違いだが
少年は、少女が自分を『待っていてくれている』と思っている。恋する男とはそういうものだ。誰も責められはしないだろう。
当然歩調は速まる。女性を待たしてしまっては紳士として恥ずべき事だ。
しかし滑稽に全速で走ってしまってはせっかく整えた髪や服が乱れてしまう。あくまで紳士的に、スマートな行動が必要だ。
これが裏路地ではなく大通りならまさに赤っ恥をかいているだろう。少年は幸せのあまり顔はただただにやついている。
そう…あくまで…紳士的にだが………あくまで紳士的に、彼女の元にたどりついた少年は目をとじて(にやついたままだが)紳士的にショーウインドーに一礼した。
なるべく声を低くしながら、紳士的に「お待たせしました」と一言。
顔をあげると、いつものように優しく微笑んでくれる愛しの…
…
少年の時は永い永い沈黙と共に完全に停止した。
「Sold…Out…??」
…
少年はそれ以上言葉は発しなかった。
『あの』少女は誰なのか
『あの』少女はどこにいるのか
別れも告げられない。想いも伝わらない。互いに互いを知らぬまま、永遠の別れは突如やってきた。
少年の初恋は、始まる事もなかった。
バスに乗り込む少年の瞳には涙はない。ただただ暗い裏路地の闇が広がっていた。
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