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少年は少女と出会い、今までの自分の人生にこう答えを出した。
『今までの僕の人生は君と出会うためにあったんだ』
そして少年は少女と過ごし、これからの人生にこう答えを出した。
『これからの僕の人生は君と過ごすためにあるんだ』
バスが揺れるたび、頭に、ある言葉がじわじわとひろがる。
『Sold Out』
少年は頭ではわかっていた。
『あれ』は『1枚』の『少女』の『絵画』だと。
しかし忘れられない心が、少年の立ち上がる力を押さえ付けた。
『彼女』は『一人』の『初恋』の『女性』だと。
バスに揺られオレンジ色の日が差し込もうと、少年にはどうでも良かった。
何度目かの永い永いまばたきが、始めて両目から一粒ずつ、涙をこぼした。
その頃、少年の頭は冷静だった。自分でも虚しくなるほど静かに立ち上がりバスを降りると、反対側のバス停に、静かに並んだ。
バスに乗り、しっかりとバス停を降りると、ここからは自転車だ。
もう暗がりでよく見えないが、日が射せば美しい街路樹と植木が季節的に花を咲かせ、ほど好い香りと賑やかな町並みが顔を覗かせる。
しかしそれも、少年にはどうでも良かった。たった1日の出来事。たった数時間の出来事。
でも少年には、一生をなくしてしまったように思えた。
自転車に乗り、漕ぎだす少年の背中は丸まり、肩は小さく見える。ゆっくりとゆっくりと進み出す。
少年はこの時、自分が世界で最も不幸だと思った。
自分の事しか、見えなくなってしまった。
少しずつ重くなるペダルに、心は痛んだ。
美しい街路樹も、ほど好い香りも、賑やかさも、今は暗闇に覆われてしまっている。
心がペダルを重くする。
ふと、ある音が少年の耳に届いた。
キュッ、キュッとゴムが擦れる音だ。
自転車の後輪は、少年の重みにすら耐えられず潰れている。
考えるよりも先に、少年は理解した。
ふっ
鼻息がもれた。
少年は空を見上げ笑っていた。
普通は嘆き悲しむだろうが少年は違った。ただ空を見上げ笑っている。
自転車を降りて、自転車を押して歩く少年の背中は伸び、肩はいつもよりも広く見える。
キュッ、キュッ、キュッ、と音をたてる自転車を押しながら、少年は空を見上げ笑顔で進む。
少年は暗闇に覆われた、道を進む。
そう、あくまで紳士的に、少年は言った。
それは小さな、優しい笑い声が、ちょっぴり明るくなった暗闇に響いた。
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