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紗雪から外国で自分の納得のいく写真を撮る夢が捨てられないと聞かされた時点で、すでに紗雪は悩み疲れている状態だった。捨てることのできない大きな夢と、それを打ち消すように襲いかかる不安。
今まで困難なことやなんかも、それなりに頑張ってきたつもりだったのに…。
そんな自分自身に負けそうになった過程を経て、目の前で満足げに微笑んでいる紗雪は本当に美しい。
「で、さぁ。ちょっと聞きたかったんだけど」
「なに?」
「私たちのこの関係、どうする?」
夜中のドラマにでも出てきそうなひねりのない台詞に、二人は顔を見合わせて苦笑いをした。
ただ『どうなるの』と聞かないところが紗雪らしいかもしれない。
「紗雪はどうしたい?」
「…いつもそれだよね。私が聞いてるのに、紗雪はどうしたい?って聞くの。私は翔悟の意見を聞いてるんだから一発で答えてくれたっていいじゃない」
「だって、ずるい言い方かもしれないけど紗雪の問題じゃない。僕はそれに応えたいだけだから」
「それはそうだけどね……正直、結論から言うと別れた方がいいかなって思う。私は少なくても二年は帰らないつもりだし、いわゆる遠距離ってことでしょ。いつ帰るのか分からないし、もしかしたら帰らないかもしれない。私がやっぱり外国で写真を撮りたいって思ってから今日に至るまで、翔悟にいっぱい頼ってたから今はそれが当たり前になっちゃってるのね。でも海外に行ってまで同じことを求められないでしょ。それが分かってて今までと同じことを翔悟には求められないよ。私も行くからには、いろんな面で大きくなりたいし…でも私は、翔悟に恋人だと思ってもらえることが誇りでもあるの。正直これからもそう思っていてほしかった。あくまでもこれは私の意見で、自分本位なのは分かってるんだけど」
紗雪は翔悟の方を見ずに一気に言葉をつないだ。
翔悟の手に包み込まれたグラスの中の琥珀が静かに揺らめいて、二人の沈黙を見守っていた。
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