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窓を打つ激しい雨。時折激しい落雷が大地を揺らす。
廃墟になってまだ日が浅いのか、教会内にある装飾やステンドグラスの大半は綺麗な形を留めていた。
だが、一角だけ酷く破壊されている。
そこに其れは在った。否、居たと表現した方が正しいのかも知れない。
ドシャッと血溜まりの中に崩れ落ちた其れは人とも蛇とも取れる形をしている。
上半身が人で下半身は蛇。
肌全体を蒼白い鱗が覆い、ヌメッと光っている。
異形なのはそれだけでなく、背中には灰色の翼が備わっていた。
天使として天に居ることが出来なかった者の成れの果て。
悪魔にすら堕ちる事が出来なかった半端者。
人々は彼等を『哀れな愚者』と呼んだ。
哀れな愚者の眼前には少女が一人、涼しい顔をして佇んでいる。
まだ幼さを残している少女の手には不釣り合いな大刀が握られている。
少女は眉一つ動かす事無く、哀れな愚者の翼を掴むと、躊躇無く大刀を振り下ろした。
翼を失った背中からは、大量の鮮血が吹き出し、雨のように少女へと降り注いだ。
声にならない断末魔を上げながら悶え苦しむ哀れな愚者。
朱に染まっても少女の表情は何一つ変わる事無く、その姿をただただ静かに見つめている。
その表情は、嘲るでも哀れむでもなく、ただ氷の様に冷めた眼だけが猛禽の様に鈍く光っていた。
ふと、背後の闇から長身の青年が姿を現した。
何処か神仏を彷彿させるような中性的な顔立ちをしている。
「遅くなりましたお嬢」
少女は言葉を発することなく目線だけで青年に何かを伝える。
青年は羽織っていた上着の間から小銃を一丁取り出すと、哀れな愚者へと歩み寄る。
静かに、奏でる様に詠唱を始めた。
『私の子達よ……此らの事を書き送るのは、貴方がたが罪を犯さない様に成る為である―――その戒めを守らない者は、偽り者であって真理はその人の内に無い――兄弟を憎む者は今尚、闇の中に居る―――義を行う者は皆彼から生まれたもので有る事を知るであろう…』
哀れな愚者の額へと照準を合わせると、薄く笑い……引き金を弾く。
『パンッ』…と乾いた音がした瞬間、哀れな愚者の躯が光に包まれ霧散した。
不思議な事は其れだけでなく、一帯を包む霧散した光は、銃の柄に下がっている玉へと吸い込まれていく。
「貴方に最期の静寂を……アーメン」
小銃へ軽く口づけをすると、青年は少女の方へ近付いていった。
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