彼等

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土曜日の18時。 その時間は必ず携帯をじっと見る。5分10分と前後に時間差はあれどその時間は必ず電話がかかってくるからだ。 今日も例外なく携帯を片手にじっと見ていると、オルゴール音が鳴る。この設定は千恵さんがしてくれた。 「もしもし、詩音かい!?元気かな?私はすこぶる元気なんだが、詩音に会えなくて千恵と一緒に寂しくてな」 よよよ、と泣き真似をする電話口の人物が想像出来て嬉しくなる。 「もしもし、こんばんは。俊さん。俺は元気ですよ。俊さんも元気そうで何よりです」 「ちょっとあなた私にもしぃ君の声早く聞かせて下さい」 「分かった分かった、詩音、千恵に代わるな」 「はい」 「もしもし、しぃ君?元気?」 「はい、千恵さんは元気ですか?」 「私も元気よ。早く夏休みになって欲しいわぁ。そしたら早く帰ってきてね。皆早くしぃ君に会いたくてウズウズしてるのよ」 「俺も早く会いたいです。ところでルーは元気ですか?」 ルーとは西園寺家の飼い猫で名前はルーナ。可愛らしい名前だが雄だったりする。6年前に西園寺家に引き取って貰って、その頃からいた白い子猫。 「えぇ、元気よ。けれど時々しぃ君を探して鳴いているわ。皆しぃ君の事大好きなのよ」 血の繋がりのない、孤児だった俺。本来なら西園寺家なんて財閥とは縁も何もない。そんな俺が今こうして好意を受け取ってるなんて奇跡だ。 優しい人達、毎日食べれるご飯、毎日入れるお風呂、暴力なんて無縁の日々。そして返ってくる言葉。一方通行じゃない思い。 「俺、幸せです」 俊さん、千恵さん、そしてルー。俺には無敵の仲間がいる。なんて幸せなんだろう。 それが実感できる毎週土曜日の幸せな一時。
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