おとまり会

22/26
1019人が本棚に入れています
本棚に追加
/85ページ
ご飯を食べ終わる頃、俺は山田君の"お母さん"呼びにすっかり慣れていた。 「お母さん、おいしかったです。ありがとうございました」 山田君が深々と頭をさげるから、俺は慌てて山田君の顔をあげさせた。 「山田君は俺の息子なんだろう?そんな他人行儀なお礼はいらないよ」 「でも」 「でもは無しだ。良かったら、毎食ここで食べないか?な、淳也」 食堂には転校生がいるだろうからな。転校生がいるということは、彼に惚れた連中もいるということだろう。そんな場所に山田君を行かせてはいけない。ニコニコとこちらを見ていた淳也に相槌を求める。 「あぁ。そうだな。父さん大歓迎だ」 茶目っ気たっぷりに笑う淳也に俺も笑ってしまう。なんか、いいな、こういうの。最初は戸惑ったけど、なんか足元がフワフワする。この感覚は知ってる。幸せって奴だ。 「ありがとうございます!僕学園で理想の家族が出来るなんて思ってもみなかったです」 エヘヘッと笑う山田君は文句なしに可愛い。こんな可愛い子に暴力を振るうなんて本当に許せない。 沸々とわいてきた怒りを妨げるように携帯の着信が鳴る。メールを見て一瞬眉を潜めるが、すぐに考えを改める。 「山田君、部屋は管理人に聞いたらやはり空きはないらしい」 「そう、ですか」 「そこで、だ。俺の部屋なら狭くもないし、俺は山田君なら歓迎するけど、どうする?」 うん、いいんじゃないか?いや、山田君が嫌なら他に考えるけど。 「あの、それは嬉しいです、けど…お父さん的に嫌なんじゃ…?」 「よくわかったな、山田」 「流石に解りますよ。でもお母さんは鈍感さんだったんですね」 「そうなんだよな。俺の気持ちにも、自分の気持ちにも」 俺を挟んでよく解らない会話をする淳也と山田君。とりあえず、 「俺って鈍感だったの、か?」 地味にショックだ。 「あぁ、変なとこでな。他人の痛みや苦しみには人一倍敏感なのにな」 「そうなのか?」 「そうですね」 「あ~、山田の部屋だが、提案がある。俺の部屋に山田が移って、俺が詩音の部屋に移る。山田も一人の方が気楽なんじゃねぇか?詩音は俺と二人は嫌か?」 「嫌じゃない!…けど…山田君はどうだ?」 確かに、そっちの方がいいのかもしれない。お母さん、なんて呼ばれて忘れていたが、山田君とは会って三時間にも満たない。そう考えると山田君の順応性の高さに驚いた。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!