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ご飯を食べ終わる頃、俺は山田君の"お母さん"呼びにすっかり慣れていた。
「お母さん、おいしかったです。ありがとうございました」
山田君が深々と頭をさげるから、俺は慌てて山田君の顔をあげさせた。
「山田君は俺の息子なんだろう?そんな他人行儀なお礼はいらないよ」
「でも」
「でもは無しだ。良かったら、毎食ここで食べないか?な、淳也」
食堂には転校生がいるだろうからな。転校生がいるということは、彼に惚れた連中もいるということだろう。そんな場所に山田君を行かせてはいけない。ニコニコとこちらを見ていた淳也に相槌を求める。
「あぁ。そうだな。父さん大歓迎だ」
茶目っ気たっぷりに笑う淳也に俺も笑ってしまう。なんか、いいな、こういうの。最初は戸惑ったけど、なんか足元がフワフワする。この感覚は知ってる。幸せって奴だ。
「ありがとうございます!僕学園で理想の家族が出来るなんて思ってもみなかったです」
エヘヘッと笑う山田君は文句なしに可愛い。こんな可愛い子に暴力を振るうなんて本当に許せない。
沸々とわいてきた怒りを妨げるように携帯の着信が鳴る。メールを見て一瞬眉を潜めるが、すぐに考えを改める。
「山田君、部屋は管理人に聞いたらやはり空きはないらしい」
「そう、ですか」
「そこで、だ。俺の部屋なら狭くもないし、俺は山田君なら歓迎するけど、どうする?」
うん、いいんじゃないか?いや、山田君が嫌なら他に考えるけど。
「あの、それは嬉しいです、けど…お父さん的に嫌なんじゃ…?」
「よくわかったな、山田」
「流石に解りますよ。でもお母さんは鈍感さんだったんですね」
「そうなんだよな。俺の気持ちにも、自分の気持ちにも」
俺を挟んでよく解らない会話をする淳也と山田君。とりあえず、
「俺って鈍感だったの、か?」
地味にショックだ。
「あぁ、変なとこでな。他人の痛みや苦しみには人一倍敏感なのにな」
「そうなのか?」
「そうですね」
「あ~、山田の部屋だが、提案がある。俺の部屋に山田が移って、俺が詩音の部屋に移る。山田も一人の方が気楽なんじゃねぇか?詩音は俺と二人は嫌か?」
「嫌じゃない!…けど…山田君はどうだ?」
確かに、そっちの方がいいのかもしれない。お母さん、なんて呼ばれて忘れていたが、山田君とは会って三時間にも満たない。そう考えると山田君の順応性の高さに驚いた。
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