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「そうですね。僕もそっちの方が嬉しいです。お母さんにはお父さんともっと仲良くなって欲しいですし」
「山田はいい子だな」
「えへへ」
ワシャワシャと山田君の頭を撫でる淳也を見て、どうしてか胸がギュッと締め付けられる。それに、少し息苦しい。
いったい、俺は昨日からどうしたっていうんだろうか?
「詩音?どうした?大丈夫か?」
何だか二人を見ていると苦しくなったので、俺は少し俯く。すると淳也が心配気に俺の顔を覗いた。
「あ、いや、大丈夫だ。それで、山田君これを飲んでくれ」
食後じゃないと胃が荒れてしまうから、山田君がきちんとご飯を食べてくれて良かった。そう思いながら、俺は薬箱から痛み止めを取り出して山田君に渡す。
「これ、何の薬ですか?」
「ん?痛み止めだ。体、相当痛いんじゃないか?ごめんな、早く渡さなくて」
「いえ、お母さん何から何までありがとうございます」
「いや、それと、一度きちんと病院に行った方がいい。その方が治りが早いだろう」
「病院はいや!!…です」
初めて声を荒げる山田君に驚く。病院は嫌…それはもしかして…
「それは…家族に知られるから?」
俺の予想は当たってしまったようで、山田君の顔は一気に青ざめる。その顔に俺は安直に予想を口に出したことを後悔して頭をさげた。
「ごめん。嫌な思いさせてしまった。大丈夫、家族には知らせないから…ごめんな」
「ちがっお母さんは悪くないんです!」
「詩音…あんま自分を責めんな。山田も心配する」
淳也が苦笑しているのがわかって、ハッとする。俺が自分を責めても、山田君を困らすだけだ。淳也はこんな俺に呆れて苦笑したのかな。そう思うと顔を上げるのが怖くなる。そんな意気地なしの俺がますます嫌になる。
「詩音、こっち見ろ」
「淳也?」
怒ってるような口調に恐る恐る顔を上げると、そこには、呆れるでも、怒るでもない、優しい顔をした淳也が俺を見ていた。その顔にほっと安心する。
「詩音、俺は何があっても詩音の味方だ。呆れも怒りもしない。だから安心して俺を頼れ」
「淳也…」
自然とどちらともなく近づき後数センチで互いの唇がくっつくという時、
「僕は空気僕は空気僕は空気」
何かがボソボソと聞こえて俺は慌てて顔を逸らした。
い、いったい俺は何をしようとしてたんだ?
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