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「なに、簡単なことですよ。」
伊東くんは妖しい笑みを浮かべて耳元に顔を近づけてくる。
「局長と副長は刺客に寝込みを襲われて亡くなられた…。そう、かつて貴方たちがごく身近の方達にしか知らせず、先の局長を闇討ちした時のように、ね。」
私はとっさに立ち上がる。
「おや、顔が真っ青ですよ?」
「何を…っ!?」
知るはずがない…
ありえない…
芹沢さんを暗殺したことを知っているのは私達試衛館からの僅かな者達の中でもほんの数人しかいない。
土方くんと近藤さんはもちろん、他は総司と永倉くん、原田くんの三人だけだ。
何故…
「母の愛とは実に涙ぐましい程に深く美しいものです。自らの命の危険をかえりみず、子供たちを護るために詳しく話を聞かせてくださいました。」
「八木家の奥方に何をなさったんですか!!」
「べつに何もしていませんよ。ただ事実をお聞きしたいとお願いしただけにすぎません。」
暗殺の際に八木家の奥方に刺客組の四人は目撃されたと語っていた。
話をもらす様子があれば即斬ると土方くんは言っていたがこの二年、彼女は何一つあの晩のことを語る気配はなかった。
それは話せばどうなるのか暗黙の了解であったからこそ彼女は沈黙を守りとおしてきたはずだ。
にも関わらず彼女が口を開いたということは、先程の発言からして伊東くんが息子達のことを引っ張り出したに違いないだろう。
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