涙―AMETHYST

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この春、私は美術の専門学校を卒業する。 就職先も決まった。 あれからも、お父さんの出張は勿論ある。だけど、連絡はマメにくれるようになった。長期の出張も今のところない。 お母さんも、最初の頃は出張の度にやきもきしていたが、近頃は落ち着いてきている。 近所の人達は、私達の顔を見る度に申し訳なさそうな、不自然な笑顔を見せていた。 でも最近は、普通に挨拶を交わせていると思う。 今日は家族で外食だ。 私の卒業と就職祝いを兼ねて、お父さんが素敵なレストランを予約してくれたのだ。 三人揃っておめかしして、少し照れ臭い。 「お母さん、準備出来た?」 「あ、お父さん、ネクタイ歪んでるよ」 それでも私は照れ臭さよりも嬉しさの方が勝っていて、ウキウキとしながら二人に声をかける。 その時、ふと、お母さんの胸元に目がいった。 見た事の無いペンダントをしていたのだ。特にペンダントヘッドに目を奪われる。 「それは?」 私が尋ねると、お母さんは嬉しそうな表情を浮かべた。 「あなたの卒業で思い出しちゃってね」 そう言いながら瞳に懐かしい色を浮かべると、お父さんにちらりと視線を送り、話し始めたのだった。
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