涙―AMETHYST

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それは、お父さんとお母さんが結婚する前の話。 二人の出会いは大学。お母さんが入学した大学の一つ上の先輩に、お父さんがいたのだ。 サークルが一緒だったのだが、そこでお父さんは夢ばかり語っていた。自分の手で世界中の建物を建てるという、大きな夢だ。 そんなお父さんは、お母さんの目にはとても魅力的に映った。 お父さんの隣で、お母さんも同じ夢を見ているかのような錯覚を覚えるのだった。 大学在学中に二人は付き合い始め、お父さんの卒業まで、喧嘩をしながらもその仲は続いた。 でもお父さんは、就職してから現実に直面する。 大きな仕事は任せて貰えず、使いっぱしりのような雑務ばかり。 自分の企画を採用しても貰えない。 結局、経験がモノを言う世界なのだ。 お父さんはそれでも腐らず、夢を叶えようと必死に頑張っていた。 ただ頑張り過ぎて、お母さんに連絡をするのも惜しむ程だった。 そう、お父さんは昔からそうなのよね。 そこでお母さんはくすりと笑い、お父さんは少しバツが悪そうな顔を浮かべた。
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