始まりと終わりと、そして、始まり

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そこら中、奴らが徘徊している。 意思を持たない、命を持たない、腐った肉の塊。 奴らは生きた人間を襲う。その血肉を喰らい、その脳を啜る。 そして、襲われた人間は、奴らの仲間になるのだ。 奴らは何故か、生きた人間を見つけ出す事が出来る。 心臓の拍動や脳波等の、生命活動を感知する事が出来るのだろうか? そして、死んだ肉体に疲れや痛みは無い。動きは鈍いが、永遠に獲物を追う事が出来るのだ。 誰もが最初は逃げ切れると考える。しかしその数は増え、気づけば追い込まれている。 そうやって、最後は失意と絶望のうちに喰われていく人を、これまで何人見た事か。 私もいずれは喰われるのだろうか……。 そもそも何故、奴らが生まれたのか。「生まれた」は語弊があるかも知れない。 動く死体、そう、『ゾンビ』が誕生したのか。 それは、私の携わった研究が原因だった。 私を含む研究チームは、最強の兵士を作る薬を開発していた。死なない肉体を持つ兵士だ。 その薬をマウスに投与して、効果を確認していた。 完成間近と思われた時、それは起こった。 何の変化も無いように見えた一匹のマウスが、次第に弱っていったのだ。 そして、死んだ。 だがそれまでにも、多くのマウスで実験を行い、時間に差はあったがその殆どが死んでいた。その死骸から検体を採取し、更に研究を重ねる。それが一連の流れだった。 疑問を持つ者がいる筈もない。 今回も検体採取の為に、同じチームのボブがケージに手を入れた。 その時だ。 死んだ筈のマウスが、突然その手に噛み付いてきたのだ。 ボブは慌てて、ケージの中にソレを振り落とす。 そして、始まったのだ。
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