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ラボに到着するまで、ゾンビが襲わずにいてくれる訳がない。
身を隠し、逃げ、戦い、無我夢中だった。
その瞬間を生きるのに、精一杯だったのだ。
殺伐とした思いが、私の中を占める。
しかし、そんな中でジェシカは笑顔を忘れなかった。それは、私とサムを気遣う、彼女の強さからくるものなのだろう。私達はそんな彼女の笑顔に、人間らしさを失わずにいられたのだ。
そしてこんな状況であっても、私が彼女に惹かれたのは必然だった。それはサムも同じだったようだ。
だがこの想いは、世界が正常になるまでは伝える事はないだろう。それは私とサムの間で、暗黙の了解となっていた。
私達は奇跡的に、研究施設に到着した。
後ろにゾンビを引き連れてはいたが、それでも施設までは辿り着く事が出来たのだ。
施設の電源を探ると、非常電源が稼動した。暫くはラボが使えるという事実に、安堵の息を吐く。
それはつまり、防災用のシャッターも稼動するという事だ。それは、シェルターといっても過言ではないくらいの強固さを誇っていた。
ただし、そういったものは往々にして、内側からの脅威には脆い。誰もが自分だけは助かろうとするからだ。
ジェシカとサムに援護を任せ、私は施設の管理コンピューターを開く。パスワードを入力してアクセスし、時間差を付けてシャッターが閉まるように設定した。
ジェシカとサムに合図を送り、ENTERを押す。
後はシャッターが閉まるまでに通路を駆け抜け、ラボに向かうだけだ。
私は後ろを振り返らずに走った。
二人が無事、通過する事を願いながら。
無我夢中で走り抜けた。
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