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俺の制止も虚しく、兄貴は扉を開いた。母がその向こうで驚いた顔をしている。
「タカ、どうしたの? 急に帰ってきたりなんかして」
「あなたも覚えていてください。俺は、あなたを一生許さない」
そう言うと、兄貴は母の肩を掴み、靴を履いたままの彼女を廊下に突き倒した。
直後、小さく悲鳴が聞こえた。兄が母の腹を踏んでいた。ぐり、とねじ込むようにして。
リビングからその様子は見えていたものの、蹴られた腹が痛くて母の側に行けない。
悔しい。俺はまた母を守れない。
母を守っていたはずの兄が、どうして今は母を傷つけているのか。
「……また、来ます」
静かにドアが閉じた。俺も母も、目にいっぱいの涙を浮かべて、ただ兄貴が出ていったドアを見つめているだけだった。
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