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夕鶴は鏡を見ながら髪を結いあげていく。
長い髪をつむじ辺りで結っていて、さらにそれを二つに分けて毛先で縛る。
「よし、完成」
ぽつりと呟き、前に来た髪を後ろに払う。
そして浮遊霊が持ってきたであろう近くに転がっていた鞄を持った。
「行くよ、叉玖」
後ろを見る事もなく声をかけると、叉玖が炎とともに肩に現れる。
『ニィ』
擦り寄ってくる叉玖の頭を撫でながら、夕鶴は後ろにいる浮遊霊を振り返った。
何故か家を出る時はいつも総出で見送りをしてくれるからだ。
「行ってきます」
形を失った彼らは、それでも必死で手のようなものを振ってくれている。
いつも危険から守ってくれる人だと認識しているのだろう。
行ってらっしゃいという言葉は聞こえてこない。彼らは、話せる程『人』としての形を保っていないから。
「……私も死んだらああなるのかな?」
扉を閉めながら、夕鶴が呟く。叉玖はそれに反応してこちらを見上げた。
『ミゥ?』
「気にしないで、独り言。ただ、私も死んだら浮遊霊になって自分の存在を忘れるのかなって」
忘れた方が楽でいい。ただ流れて、そして消えるだけだから。
そこら中に蔓延る悪霊と言われるようなものにならないだけ、マシだ。
「祓われるのって、痛いのかしら?」
問い掛けに返事はない。オサキ狐である叉玖には、祓われる苦痛なんて分からないだろう。
ふと視界に入ったふわふわ浮いている半透明の物体。それにため息を付く。
「また来たの?」
それは浮遊霊だ。部屋にいる浮遊霊の一人。何故か彼は――いや彼女かもしれないが、いつも着いてくる。
自分がどこかに行く度に着いてくるのだから、堪ったものじゃない。
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