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「あのさ、いつもいつも着いて来なくていいの。分かる?」
夕鶴の駄目元の言葉は浮遊霊には聞こえないらしい。いや、ただ聞いてないフリをしているだけだろう。
この浮遊霊はまだマシな方で、自分の言葉をちゃんと理解しているはず。
「無視するの、まぁいいけど」
生前は頑固でいろんな人を困らしていたのだろうかと迷惑な事を考えながら歩き出す。
「〈閉まれ〉」
唇に人差し指を当てて、振り返る事なく言う。後ろからカチャリと鍵のかかる音がした。
唇に指を押し当てるのは、夕鶴の癖だ。別にそんな事をしなくても言霊はちゃんと発動してくれる。
「鍵いらずって便利ね」
くすりと笑いながら、階段を使って下に降りる。一度エレベーターで痛い目を見たから。
すれ違う人に挨拶して、自分はマンションを後にする。
今日は快晴。こういう日は何も起こらない事を祈りたい。
学校までは歩く。十分もかからない場所にある為、普通に間に合うからだ。
遅刻しそうになった場合のみ、自分の自転車を使う。
今は夏真っ盛り。夏は怪談話をよく聞くのに比例して、霊もよく姿を現す。
人間にいた時の記憶なのだろうか。夏は霊の季節と思っているものが多い。
そこらに弱い低級霊の姿が見える。浮遊霊もまた然り。
毎日見ている景色だからもう何も感じない。が、たまには誰かに代わってもらいたくなる。
「こんな景色、普通の人が見たら卒倒ね」
ため息。最近それが癖になってるような気がしてならない。そんな自分を嘲笑いながら、学校を目指して歩いていく。
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