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学校に着いてすぐに夕鶴は机に突っ伏した。
自分の横では心配してるのか、いつも付き纏ってくるあの浮遊霊がうろうろしている。
そして叉玖は、夕鶴の鼻に自分の鼻先をぶつけて遊んでいる。
湿った冷たい鼻先をぶつけられて、ついつい苦笑してしまう。
「こら、叉玖」
小声で注意をすると、叉玖は二本の尻尾を振りながら行儀よくおすわりの姿勢。
何がしたいのだろう。それでも、見ているだけでも十分可愛いから許す。
「おはよう、夕鶴」
「ん?あぁ、おはよう眞智(まち)」
自分に声をかけてきたのは、中学からの友達である眞智だ。
茶髪にピアス。綺麗な顔がますます近寄りにくい雰囲気を醸し出している。
「また眠そうね。夜更かしでもしたの?」
彼女は自分の力を知らない。だからこちらも何も言わない。
再び机に顔を突っ伏すと眞智から呆れたような視線が向けられる。
「どうしたのよ、疲れてるじゃない」
「ちょっといろいろあったのよ」
いろいろは確かにあった。昨日から、自分は巫女姫とかいうよく分からない称号を引き継いだ。
それを言っても分からないと思うが。彼女は霊が見えない、話せない、触れられない人だ。
そんな人に霊力がどうのこうのという話しをしたところで、嫌われるだけ。
身を持って知っている夕鶴は、何も言わないようにしている。
聞かれなければ答えない。そして気付かれる事もないから聞かれない。
その生き方が一番楽でいい。自分も傷付く事がなくて済むのだから。
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