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この家に人が尋ねてくる事自体が本当に珍しい事で。それも、霊力を持つ者というのなら尚更だ。
少女は『底無しの霊力』を持っていた。その名の通り、十六年生きてきて今までで一度も霊力を使い果たした事がない。
例えどれだけ強大な術を使っても、何百枚と呪符を作っても。無くなった事はなかった。
だから時々、その力を利用しようとする霊力者が何人か尋ねてくるが、それ以外は誰も来ない。
「誰かしら?」
訝しむような表情で少女が呟いた瞬間、いきなり外にいる人物の霊力が解放された。
家の中にまで侵入してくるその霊力の波。それを、腕を横に薙いで吹き飛ばす。
後ろにいる浮遊霊達の怯え様は見ていて可哀相だ。祓われてしまうかもしれないので怯えるのは当たり前だが。
「……仕方ない」
自分が出ていくしかない。今のは多分、自分の遣わした浮遊霊を祓ったのだろう。
大切なしもべだ、祓われては困る。それに家の前で力を使われるのは好きじゃない。
部屋から出て、少女は扉に向き直る。もし家にいる浮遊霊が目的なら、これ以上は祓わせない。
扉に向かって小さく何かを呟く。そして二回柏手を打つと、普通の人には見えない膜が部屋を覆った。
即席の結界だ。普通に作るものより強度は落ちるが、それでもそこらにいるような霊力者には破れない。
「これでよし」
結界は神聖なもの。中にいる浮遊霊は少し居心地が悪いだろうが、我慢してもらおう。
玄関に視線を向けて、少女の淡い桃色の瞳が細まる。好き勝手してくれた者には制裁を加えなければならない。
ため息をつきながらも玄関へと進む少女の耳に、何故かチャイムの音が聞こえてきた。
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