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こういうタイプの人間は嫌いだ。内心何を考えているのか、全く想像出来ないから。
「私は、先代の巫女姫です。巫女姫は知ってますね?貴方には、今代の巫女姫になってもらいたいの」
巫女姫。それは聞いた事がある言葉だ。自分達のように霊力を持つ者には聞き慣れた言葉。
代々龍嘉家の人間で一番力の強いものがなれるという称号。それが巫女姫だ。
「断る」
きっぱりと一言だけ、夕鶴はそう言った。そんな堅苦しいものに興味はない。
驚いたように顔を見合わせる近藤と風代。絶対に受けるとでも思っていたのだろう。
「何が嫌なの?それは名誉な事でしょう?」
確かに、龍嘉家といえば最強の霊力者が生まれると言われるくらい大きな家だ。
その家で一番力が強いという事は、数多程いる霊力者達の頂点に君臨するという事。
だが興味はない。自分は自分の周りの人だけを助けられたらそれでいい。他の事は知らない。
「興味ないもの。それに、貴方達と関わりたくはない」
「なら、養子になって巫女姫を継いでくれたら貴方にはもう関わらない。それでどう?」
確かに、もう関わらないという提案は魅力的だ。だが、それでも心が揺らぐ事はなくて。
基本的に面倒な事は嫌いなのである。巫女姫になるというのは、面倒以外の何でもない。
「国中から依頼が来るらしいけど、そんな事も一切なし。私が巫女姫である事も広言しない。それでいいなら受けるわ」
それは、ほとんど巫女姫の役目を放棄するという事。本当に、ただ称号を貰っているだけ。
流石にそれは許し難いだろう。龍嘉の人間としての矜恃があるはず。しかし自分程の力の持ち主は他に存在しない。
「……仕方ないですね、受けましょう」
諦めたようにその提案を受け止めた風代の言葉を聞いて、にっこりと笑顔を浮かべた。
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