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オサキ狐は、飼い馴らすと飼い主の命に従い様々な不思議な事をするという。 名前の由来は見ていて分かる。尻尾が二本あるからだ。 「どう?」 『ニィ』 一声鳴くだけだったが、それでも夕鶴には叉玖の言いたい事くらい分かる。 叉玖はこの格好を見て、よく似合うと褒めてくれたのだ。 「ありがとう、叉玖」 『クウゥ』 頭を撫でると気持ち良さそうに目を細めて擦り寄ってくる。 不思議な妖だ、このオサキ狐は。人間に懐き、人間に忠誠を誓うなんて。 叉玖は夕鶴の式神だ。自分の命令に従って、その命さえも彼は自分に捧げてくれる。 目を細めながら叉玖を眺めていたが、不意に気配を感じて視線を上げた。 いつの間にか、扉の前には風代が立っていたのだ。 叉玖を見るのに集中していた訳じゃない。いつの間に入ってきたのかと考え、気付いた。 「式を飛ばしてくるなんてね。貴方から出向きなさいよ」 『準備は出来た。これについてきなさい』 こちらの言葉にはまるで反応しない。一方的に言葉を話すだけの簡易型の式なのだろうか。 力があるものは、少しの用でも会話が出来る式を使いたがる。 自分には力があるのだと見せびらかしたいのだろうが、風代は違う。 彼女は本当に重要な用でない限り、それを使わないのだろう。この呼びにきた式を見れば分かる。 力の無駄遣いが嫌なのか、それともただ力が弱まっているからなのか。 つらつらとつまらない事を考えながら、夕鶴は叉玖と着いていく。 今日一日は最悪な日になりそうだ。そう言いながら、深いため息をついた。
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