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遠くで懐かしい声がした気がした。
目を開けて周りを見渡すと、一面の花畑が広がっている。色とりどりの草花と青空とのコントラストはとても綺麗で、幼い体で両腕を広げて空気を胸いっぱいに吸いこむ。
そういえば、私はどうしてここにいるのだろう?
ふと感じた疑問は、しかし自分を呼ぶ声に遮られた。
「フィラル、早くいらっしゃい」
後ろから聞こえた声の方に意識を向ければ、柔らかな日差しの向こうに母の姿があり、こちらに向けて手を差し出している。
そうだ、今日は皆でピクニックに出かけたんだった。
そう思い出すと、母の両脇にはいつの間にか父と兄がいた。私の大切な家族。その姿を見て感じたのは何故か安堵で、迷子の子供が両親を見つけた時のように私は三人に向け走り出した。
あと少し、あと少しで手が届く。
その瞬間、浮遊感と共に足元の地面が消失した。こちらに手を伸ばす母の顔は逆光で見えず、必死で伸ばした手は虚しく空を切り、視界は暗転した。
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