407人が本棚に入れています
本棚に追加
「あたし、もうすぐ引っ越すことになっちゃった」
美紀が唐突に言ってきた。
「え?」
綾子は言葉が出てこなかった。美紀の口調が内容の割にはいつも通りで現実味が感じられなかったのだ。
「だから、あたし引っ越すんだって。お父さんが転勤するの」
「えっ、いつ決まったの?」
「昨日、急に言われた。前から決まってたみたいだけど、なかなか言いだしにくかったんだって。そりゃそうだよね。中学生活もあと半年で、今さら引っ越してどうしろっての」
綾子と美紀は中学三年生で、今は夏休みだ。受験に備えて毎日塾に通っているのだが、授業以外のほとんどの時間は近くのファーストフード店でおしゃべりをしている。親が知ったらどれほど怒るだろうと多少の罪悪感は感じているがそれでも、この生活はやめられない。
今もトレイに置かれたジュースを挟んで綾子は美紀と向き合っていた。
最初のコメントを投稿しよう!