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しかし、美紀は意外なことを口にした。
「実はね、あたしも昨日お母さんにそれ言ったんだ。家出して綾子の家に行くって。そしたらね、お母さんが『お父さんがかわいそうじゃないの?』って。『一生懸命、美紀のために働いてるのに一人で行ってこいなんて言える?』って。そう言われたら何も言えなくなっちゃうじゃん。だからあたし諦めたの」
「でも……」
「仕方ないよ。親の都合には従うしかないし。あたしも昨日だいぶ駄々こねたんだけどね」
綾子は何も言えなかった。これ以上抵抗することも、引っ越してもずっと友達だよと言うこともここでは違うと思った。
「中学最後の夏休みを綾子と過ごせるわけだしさ。そんなにあたし落ち込んでないよ。まだ二週間もあるし」
綾子は本来励ましてあげないといけないのに、なぜか自分が励まされていることに自分が情けなくなった。
「そうだね。あと二週間目一杯遊ばないとね」
「勉強は?」
美紀はいたずらっぽく笑っていた。
「そんなのは後回し。今は美紀と遊ぶ方が大事だもん」
「そうだよね」
二人の間の空気がいつものものに戻ったので綾子は安堵した。あと二週間このままでいることが美紀への最大の贈物になると思った。
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