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綾子は目の前のコップの中身をストローで吸いこんだ。ジュースはとっくになくなっている。
氷が溶けた水にほのかにオレンジの香りが付いていた。
「上原君ってさ、好きな子とかいるのかな?」
美紀がこの話題を出してきたことで、少し体が硬くなった気がした。
でも、それを悟られてはいけない。
「さあ。あんまり聞いたことないな」
「やっぱりもてるじゃん。実はこっそり誰かと付き合ってたりとかはないかな?」
綾子は心臓の奥を針で突き刺された気分だった。もしかしたら美紀は綾子が付き合っていることを知っているのではないかと勘繰ってしまう。
「それはないんじゃない。普通付き合ってたらみんな知ってるでしょ」
「でも、知佳子と佐伯君も付き合ってるんだよ。知らなかったでしょ?」
「えっ? そうなの?」
「これは極秘情報なんだ。知佳子から聞いたもん」
美紀は自慢げに話す。
「極秘情報を勝手に漏らしてもいいわけ?」
「綾子ならいいでしょ」
そう言われるとますます胸が痛くなった。こんなに信頼してくれている友達を最後は気分良く送り出したい。
上原とは所詮二カ月の付き合いだ。ここで別れてしまっても代わりになる人が現れるかもしれない。
美紀は一番の親友なのだ。彼女をだますことなんて出来ない。
上原とは別れよう。別れてしまえば、純粋に美紀の恋を応援出来る。そう心に決めた。
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