そして、姫の受難は始まった。

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コンコン 二度目のノックの音が部屋の中に響く。はっと我に返ったリュカは、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。 「はい。」 声がかすれないように気をつける。 「姫様、朝早くに申し訳ありません。レイン・ホールです。」 (レイン・ホール?) 聞き慣れたメイドの声を想像していたリュカは、若い男性の声と名前を聞いて首をかしげる。 レイン・ホールは、父の側近をしている。さらに彼は、セイノア国で最も賢王だと唄われた前王の側近も務めた。十六歳で側近になったらしい彼は、当時も今も変わらず注目されている人物だとメイドが熱く語っていた。 現在は、確か二十代の半ばくらいだったはずだ。 というのも、リュカは彼と余り面識がなく、殆ど遠目からしか見たことがない。二、三度言葉を交わしたような気もするが、内容は全く覚えていない。 そんな人物が自分の寝室に訪れたのだから不思議に思うのは仕方ないことである。 「どのような、ご用件でしょうか?」 「はい。・・・姫様の父上様からお手紙を届けるよう言付かって参りました。」 (お父様から?) リュカは、怪訝に思う。何故、父から手紙が来るのか、さらにその手紙を側近がわざわざ届けに来るのか意味が分からない。 (それに『姫様の父上』って言い方も変だし・・・) あれこれ考えても仕方ないのでリュカは不信に思いながらも上着を羽織って中に入るよう促した。 レインは、ドアを開け一礼して一歩中に入り立ち止まる。 リュカは、立ち止まったままの彼を見て首を傾げる。 「どうかしました?」 なぜ、早く自分の所に手紙を持ってこないのかと手を差し出す。 「あ、あの姫様。」 レインが困った様子を見て、リュカはやっと理解する。 ここは、一国の姫の寝室だ。普通、この部屋を出入りするのはメイドばかりで、たまに殿方が訪問しても姫自らが部屋から出て話すか、メイドを立ち会わせて話さなければならないことは暗黙のルールだ。 だか、リュカは父や兄の他に訪問してくれるような殿方はいないため、その事をすっかり忘れていた。 レインは、レインで女性の寝室に訪ねたことがなかったため、寝衣を身につけ立っているリュカを見るまで気づけなかったのだ。
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