狂気の起点

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背の高い男が、カメラクルーに少し微笑んでみせた。 クルーはこっそり亜紀に耳打ちする。 「おれ、ファンなんすよ。いっつも服とか真似してるんス」 ニュース以外の番組は見らず、事件担当ばかりしていたため、亜紀には分からなかった。 「ふーん…知らん」 そんなそっけない返事に、一緒にいたマネージャーらしきメガネの女性もカメラクルーも目を丸くする。 「え!そんな反応っすか!普通の女性なら、どぎまぎしたり、顔赤くしたりするんすよ。CMとかドラマとかでまくってるじゃないですか、まじで更科さん、女じゃねー…」 ある意味さげすみの視線を後輩に向けられ、少しむっとした亜紀は、彼の頭をこづいた。 「今の内閣の顔ぶれなら出身大学まで全部言えるけどな。テメーも服真似してる暇があったら、新聞でも読め」 ちょうどニュースセンターのある40階にエレベーターが到着し、ドアが開いた。 カメラクルーは降り際に、2人に頭を下げた。 「わーまじありえねー。スミマセン、この人サイボーグなんです、ほんと失礼しました。あ、龍崎さんいつもご活躍拝見してます、まじで応援してますんで頑張ってください」 メガネの女性が困惑気味に「いえいえ…」と手を振り、龍崎東矢は「ありがとう」とふわりと微笑んだ。 そして、自分を一瞥もせずに降りる亜紀の横顔を見て、少し口の端を釣り上げた。
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