狂気の起点

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エレベーターを降りても「まじでかっこいい、日本の宝だ」と興奮冷めやらぬカメラクルーを尻目に、亜紀は自分のデスクのあるニュースセンターへと入った。 来月中旬に放送予定の、自分で企画した特集の取材の手配をして、デリバリーのサンドイッチで遅い昼食をとりながら、ふとカメラクルーの言葉が脳裏をよぎった。 『まじで女じゃねー』 悪かったな、と心中でぼやきつつ、ネットで「龍崎東矢」を検索してみる。 現在25歳。 15歳のころからモデルをはじめ、20歳で俳優業にも手を伸ばし、海外のコレクションにも出演しているという華々しい経歴が、はじき出された。 同時にヒットする画像は、まさにあのエレベーターで出くわした青年。 カメラを鋭く見つめる写真や、ランウェイをあでやかに歩く動画…どれも王者か帝王のような威厳と華やかさがあった。 しかし、亜紀はひとつ気になっていた。 あの男の目…というか眼光が、何かとダブって見えたのだ。 記憶をたぐるが、いまいち思い出せない。 しかし、決して「善」とか「喜」といった前向きなものではないことは確かで、気味の悪さを感じていた。
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