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時刻は5時30分。 私は、何時ものように彼と出会った河原にいる。 「……そろそろかな」 手首に巻き付いている腕時計のオレンジの長針と短針は、何時もと同じ時刻を示している。 最近、私にはある日課が出来た。 彼に、会うこと。 クラスメイトなのに、学校では会えない人。 「弥生。元気か?」 後ろから、自分の名前を呼ぶ声がする。 彼の声だ。 ゆっくりと振り返る。―――やっぱり、そうだ。 「…昨日も会ったじゃない、舜くん」 逸る気持ちを抑えながら、なるべく平淡な声を意識して返答をする。 「毎日会ってるもんな」 いたずらっ子の様な笑みを浮かべながら、舜は隣に座る。 2人並んで、でも少しだけ隙間を空けて座る。 「今日も暑いな」 「夏だから」 「…やめろよ。当たり前すぎて、余計に暑くなる」 じゃあ、どう言ったらいいのだろう。 答えが浮かばなかったので、取り敢えず肩をすくめるだけで、何も言わないことにした。 今の季節は、夏。そのため、夕方の今も空はまだ明るい色をしている。 夏特有の蒸し暑い空気の中に、河原を渡る涼しい風が、時折2人に向かって吹いてくる。 「ここは、まだマシだよな」 カラカラと笑いながら、舜は風に身を預ける。 「…そうだね。河原だから」 「………最近気付いたけど、お前冷たいよな」 舜の言葉にも弥生は「そうかな」とだけ答える。 その顔に、表情らしきものはなかった。 そんな弥生を見ながら、舜は“笑わないな”と思う。 前は、笑っていたのに…。 舜の記憶の中にいる弥生は、笑っている。 桜の花弁を付けながら、くったくなく、太陽みたいに笑っている。 笑わなくなってしまった原因を舜は、知らない。 「……舜くん?」 弥生の声に、はっとする。 自分の思考の中に、入りすぎてしまったようだ。 思わず舌打ちする。 我を忘れて、考えすぎていたことに。 弥生の声にも表情にも、何の感情もないことに。
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