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「義兄です!」
芯さんと一緒にいると、こういう勘違いもされるからイヤだ。
「へーカッコいいお義兄さんだと大変だね」
「それじゃ」
ふたりに背中を向けた途端、
「鈴」
あの時と同じ、低くてよく通る声が響いて私の名前を呼んだ。
一瞬で金縛りにあったみたいに動けなくなった。
「あんまり無理をするなよ」
ゆっくり振り返り、真っ直ぐ向けられる瞳に、
「……はい」
声を出すのが、精一杯だった。
戻ろうと店内に入ると、男女の団体がゾロゾロとこちらに向かってきた。
「あ、さっきはマジでゴメンね! お詫びするから連絡先教えて」
トラブルの原因を作った男だった。
人が変わるだけで、似たような言葉でもこうも下心があるんじゃないかと疑ってしまう。
「月斗君が謝ってくれたからもういいです」
「それじゃ悪いし。今度昼飯でも奢るよ」
「それも月斗君からお誘い受けたんで結構です」
「は? アイツいつの間に」
ひとりで勝手に騒いでるのを無視して、ようやく芯さんのところに戻る。
「お待たせしました」
「おかえり。鈴はモテるね」
私よりはるかにモテそうな人に言われたくない。
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