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楓さんたちにご馳走になってから、講義の時間が迫りお礼を言って後にした。
講義も耳に入らず、先程の会話とあのピアノの音が頭の中を支配していた。
楓さんから教えてもらった名前は、つい最近聞いたばかりのもの。
あの綺麗なピアノをあの人が?
全くといっていいほど会話をしたことのない人を、見た目だけで判断は出来ない。
講義が終ってから外に出て、時間を確認しようと携帯を手に取ると、時間よりも新たに登録された名前のほうが気になった。
「鈴、どうしたの?」
「わぁ!」
思っていた以上に意識を飛ばしていたらしい。
つい、過剰に反応してしまった。
「紗英か、ビックリした」
「ビックリしたのはこっちだから。どうしたの、ずっと携帯見て。お義兄さんと何かあった?」
「……いや、そういうわけじゃないんだけど」
ただ、あの音色が離れなくて。
消えてくれない。
たまに顔を出すみたいだから、行けば会えるかもしれない。
でも、行くのは躊躇ってしまう。
その理由が分からない。
「お義兄さんじゃないなら……好きな人が出来た、とか?」
あまりに突拍子しもないことを言われて、ため息が出た。
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