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「ありがとな」
お礼を言われるとは思わなかった。
「これサンキュ。上総にも言っとくよ」
手を振って、店を出た。
「鈴チャンのカレシ?」
「違います。大学のと、友達、です」
「その割には鈴ちゃん嬉しそうだったよ」
同じアルバイトの付け睫が命らしい高野さんと日本人形のような加納さん。
見た目は全くの正反対なふたりは気が合うらしい。
私よりふたつ上だ。
「この間知り合ったばかりです」
「そんなの関係ないじゃーん」
「そうそう、気づいた時にはもう遅いってやつよ」
コイバナも大好きらしく、ふたりの合コンの武勇伝もいくつか聞かされた。
お姉様方のアドバイスのようなものに、浮かんだのは……
『鈴』
あの、声。
私を呼んだ、低くてよく通る声と見間違えたかと思うほど一瞬だけ微笑んだ、あの人。
加納さんが詩でも歌ったかのように言う。
「『恋はするものじゃない。落ちるものだ』ってよく言うじゃない?」
ふたりの声が遠い。
胸に新しい波紋が広がった感じがした。
「はい、おしゃべりはその辺にして仕事してもらおうか?」
最近、社員になった川上さん。
私が入った時に色々指導してくれた人で、皆のお兄さん的存在。
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