~センプレ~

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しばらく立ちすくんでいたけど、いつまでもこうしているわけにはいかない。 毎月、この瞬間がイヤだ。 インターホンを押して、出てくるのを待った。 「はい」 「こんばんは、鈴です」 「鈴?」 すぐにドアが開き、エプロンをした女性が現れた。 「もーいつも押さなくていいって言ってるでしょう」 「クセなんで、すみません」 笑みを浮かべた女性は私の義母の律子さん。 「おかえりなさい。さあ、入って」 家に入ってもただいまとは言えず、小さい声でお邪魔しますと呟いた。 「お、鈴おかえり。芯と燦はまだなんだ」 義父の孝文さん。 軽く会釈して、ふたりがいないことに内心ホッとした。 「冷めちゃうから食べましょ。せっかく鈴がいるんだから」 「そうだな。鈴飲むか?」 「じゃあ、少しだけ」 孝文さんが手で飲む仕草をした。 遺伝か孝文さんと過ごしたせいか、お酒には強い。 「一人暮らしは慣れたか?」 「はい。楽しくやれてます」 「そうか。燦は家のことやらないから一人暮らしは心配だな」 「その時になればできるもんです」 グラスを受け取り、一口飲むと苦味が広がる。 「燦は飲めんし芯は休みの前しか付き合ってくれなくてな。鈴がいなくて寂しいよ」 「律子さんがいるじゃないですか」 「そうよ。鈴だって忙しいんだから」 律子さんもグラスを持って席についた。 「でも、鈴が良ければいつでも帰ってきていいんだからね。ここはあなたの家なんだから」
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