エピソード3

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よくよく雄蝶は「ああ、僕の思い蝶はこの冬を無事生き延びただろうか。それさえわかれば…」とだけ思い春の到来を待つ他なかった。そしてその雄蝶も鳴き続けるより他なかったのである。そうして幾ばくかの時が過ぎた。その間雄蝶は大木の裂け目にできた室でぬくぬくと暮らしていた。風よけにも日よけにもなり、ちょっと上に登れば樹液が吸えるのでまさに一切やる気をなくした雄蝶にはピッタリの環境であった。誰にも邪魔されず徐々にパルスを送ることさえ忘れつつあった雄蝶はある日一羽の弱り切った老いた雄蝶に出会う。その老蝶もまた大木の室を目指して遠方よりはるばるやって来たという。その老蝶、樹液でお腹が満たされ一息入れたあと隣の雄蝶に気づいたのだった。ちょっと会話をしただけで癒された雄蝶はその老蝶と親交を深めた。飛べなくなっていた雄蝶にとって、その老蝶がひらひらと羽ばたく様は羨ましき限りであった。その老蝶の幅広い交遊関係には参ってしまうほどにそんな雄蝶を心配してその老蝶は話しかけてくれたのである。 「お前のその羽は美しく見えるがお前にとりどうやら厄介なものでもあるようだな。飛べぬというは本当か?」その問いにうなずく雄蝶。
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