エピソード3

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実際羽ばたいて見せるのだが、脚が木肌から離れることはなかった。 「うーむ、なるほど本当のようじゃ。お前の体は比較的小さいが不似合いなその羽ではバランスが悪いかのう」。雄蝶は初めて体躯の小さいことを指摘され自らが大きな羽を身にまとっていることに気づかされたのである。 「そうか、僕は体にふさわしくない羽をいつの間にか身に付けていたのか…」。「今気づいたのか?」。「はい、ご老。私が飛べない理由もつまり…」。「そうじゃ。力が不足しておるのよ。だからと言って力をつけようとしてもそのバランスの悪い羽をつけたままでは動きづらくて仕方がないだけなのであろう。だからと言って羽をむしり取る訳にもゆかぬし、難しきことよ」。「羽を自らむしった経験ならございますが」。「今でもそれができるのか、お前に」。「………」。「そうであろう。歳月がたつうちに、お前の度胸のよさも失われてしまったのじゃ。だが身の丈にあった羽を身に付ける手立てがないわけではないが…」。それには答えぬ雄蝶。 「あまり関心なしか。お前にとりここの暮らしはあまりに安寧すぎるようじゃのう」。
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