エピソード4

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「まもなく秘穴へと到達できる」。「まったくこの辺りだって言うからノコノコついて来たというのに無駄足になりますまいか」。「そんなはずはない。この場所しかあり得ぬ」。雄蝶にとりこの数日間の徹夜続きは辛酸をなめるほどの苦痛であり今まで味わったことの無きものだった。いも虫時代の記憶にもないほどの苦痛を体に刻みつけこのまま何も見つからなかったら、「じぃ」と彼が名付けたこの案内人を絶対殺すとまで思いつめていたのである。そうこうする内にむしり取った羽が徐々にまた生えだしてくるというのにそのことをまるで忘れてしまう雄蝶であった。「じぃ、確かにこの辺りなんだな?」。「ああ、間違いない。何度も来た道、忘れる訳がない」。「こんなに時間がかかるならあらかじめ教えてくれても良かったろうに」。「わしも忘れておったのじゃ。とにかく、ちょうどおぬしの体ぐらいの穴が開くはずじゃから一瞬たりとて見逃せぬからのぉ。おぬしはここでじっといたしておれ」。辺りには草原が広がっている。そして一昼夜が過ぎるも付近に変化は見られなかった。しかし、案内人は余裕であった。何度もその穴が開くさまを見届けてきたからに相違ない。
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