エピソード1

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その間瞬間的に虫にとりての人生が頭をよぎった。自らの出自について一切知らない不幸なその虫は完全にサナギとなり、蝶への変態の時を待った。そしてサナギ体から不可思議な色をした蝶が誕生したのである。そのまがまがしき輝きは周囲を驚かせあっというまに噂となり尾ひれ羽ひれを加えたその蝶にとりては迷惑千万なる程のものとなるのである。しかしその蝶はただ生存するだけでは満足できぬ程のある種野望を秘めていた。どう説明すれば良いのだろう。それはその蝶自身にもよくわかってはいなかった。 その蝶にはやがて自傷癖が身についてしまうこととなる。成虫し蝶となりし後も不安の種尽きず自らの羽をむしり取る有り様。周囲には予測済みのこと、だがその蝶自身にとりては周囲の目などどうでもよくただひたすら自らの安寧を願っていただけやも知れぬ。しかし、むしり取りし後からもまた再び羽がはえてくるのにはいささか参った蝶であった。その時すでにその蝶には飛翔能力が奪われていようとは蝶自身気づいてはいなかったのである。
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