エピソード2

3/3
前へ
/63ページ
次へ
その言葉を咀嚼する時のない雌蝶は絶望するでもなくこう答えた。 「わかりきっていたことよ。私にとってたいした話ではないわ」そう言い切る雌蝶を見、かすかに悲しんだ毒花はこう言い添えた。 「私のせいねきっと。でもあなたは役目をきちんと果たしたのよ。受精もかなった私にできることといえばあなたに飛べる力をとり戻して欲しいことのみ」。 「それがわかっていたらとっくの昔にここから飛びさっていたわよ」。毒花は雄蝶にパルスを送り「あなたには失望したわ。なんの力もないのね」と語りかけた。「わかっている。もう僕には飛べる力なんてないんだ。僕の周囲には雌蝶など一羽も居やしない」。 「その雄蝶の言うことを信じちゃ駄目よ」毒花が言った。続けざま「あなたほどの美声を放つ雄蝶は二羽とていないでしょう。遠くからよくそんなことができたものね。それだけは感心」。「私の役目が終わったって本当?」雌蝶が尋ねた。「あなたには寿命があるの。その間にできることをやりとげたのが今のあなたなの。後あなたには子孫を残すことのみが残された仕事。きっと彼が迎えに来てくれるはずよ」。信じる他のない雌蝶だった。
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加