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「……イライラしてきた」
閉じていた瞼を開けると同時に、眉を顰めて誰にともなく1人ごちる。
思い出さない方が良かったか……?
蘇ったあの瞬間の感情に軽く後悔していると。
「悪いな。遅れてしまった」
「うおッ!?」
目の前に漆黒の羽を背中から生やした、紫の長髪で深紅の瞳をした美男が現れた。
前触れもなく現れた為に、思わず情けない声を上げてしまう。若干恥ずかしさが込み上げ、視線を逸らす。
とりあえず俺は座っている状態から立ち上がり、口を開く。
「遅かったのはまぁいい。だから早く説明しろ」
「……この状況に驚かないのか?」
男はあまり変化していないが、僅かに目を見開かせていた。
「別に、″巻き込まれて″死んだことは記憶にあるし」
平常心で言ったつもりだったが、″巻き込まれて″を強調してしまった。
「あぁ、そうだったな。今回のことはまさしくそれだ」
俺に向かって真っ直ぐ指差す。真剣な表情をする男を見て、俺も静かに耳を傾ける。
「簡単に説明するぞ。お前の親友である【相楽 昴】は死ぬ予定ではなかった。世界全てを管理する″世界神″という神が間違えて彼の命の紙を破いたのだ。結果、トラックに轢かれて死亡した。……ここまではいいな?」
「……まぁ」
「ただ、彼だけが死亡しただけなら兎も角、あろうことかお前を巻き込んでしまった。今は世界神が相楽 昴を呼び、異世界へと転生する準備をしている。……だが」
「だが?」
途端、相変わらず変化は乏しいが顔を歪めた男に、俺は少なからず続きを察した。
「世界神はお前を呼ばなかった。アイツは他の神に後々指摘されるのを怖れ、お詫びとして相楽 昴だけを呼び、余計で余分な人物は後で証拠隠滅として魂自体を消そうとしていた……」
予想通りだった。だが予想通りだった分、どうしようもない怒りが爆発した。
「ふざけんなッ!!俺は死んだ!!ろくに楽しい人生も送れず、昴に巻き込まれ、常に女に僻まれ!!最後の最後まで世界神とかいう最低野郎と昴に殺された。なのに証拠隠滅として魂を消す?んなことがあってたまるかッ!!」
別に目の前の男が悪い訳じゃない。だが、ここにいない奴等への怒りは彼にぶつけるしかなかった。
「……【神原 零真】」
「…………。何だ」
黙っていた男に名前を呼ばれ、叫んだこと息切れはしているものの、返事をする。
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