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塔の主は、一つ上の段に居るレンの方を向き直し、後脚だけで立ち上がった後、けたたましい咆哮を上げた。その轟音が直撃する。咄嗟に耳を塞いだ為、なんとか鼓膜は破れなかったが、聴覚は機能しない状態に陥った。塔の主は、威嚇と取れるその構えを解くと同時に再び炎を纏う。その温度変化の影響なのか、凄まじい熱風が放たれる。この風圧によってレンは立っている事が出来ず、背後の階段に背中を衝突させた。塔の主は残った獲物を仕留めようと、前脚を段に掛けた。
レンは再び絶望に押しつぶされそうになったが、まだ逃げる事を考える事は出来た。階段は塔の主によって塞がれている。飛び降りるしか残された道は無かった。レンは階段の淵まで移動し、下を覗き見る。まだ30メートルはあった。―高い。奥歯がカチカチと鳴るのがレン自身でも分かった。恐怖は決断を遅らせた。それは塔の主が獲物との距離を詰めるには十分な時間だった―。レンの背に、人とほぼ変わらない程太い前脚が叩き付けられた。皮肉にも、レンは逃れようとした相手の手によって、逃げ道に叩き落された。レンは、塔の底に消えていった。
塔の主は振り返り、自身が塔を突き破ってできた穴から、外へ飛び立つ。そして元居た大部屋に侵入していった。大部屋の中で炎帝は眠りに就いた。
軍の医療施設でレンは目を覚ました。調査の日から3日が経過していた。
レンの視界には幾つかの人影が映るが、ぼやけて誰かは分からなかった。レンは目を擦りたかったが、両腕とも動かなかった。
≪??≫「レン?聞こえるかしら?」
レンはその声が上長のエリンである事が分かった。なにかリアクションを取りたかったが、声も出せなかった。
≪エリン≫「そのままでいいわ。今は体を直す事だけ考えなさい。」
その穏やかな口調に安堵したのか、レンは再び眠りに就いた。
―レンは夜の砂漠に居た。夜空には数えきれない程の星が輝いており、その中でも満月が一際強い光を放っていた。しばらくレンはその景色に見とれていたが、背後から強い光を感じ、そちらを振り返る。そこには、夜空を斜めに切り裂く流星があった。橙色の光を放っていたが、やがて地に衝突するのが見えた。レンは落下地点に足を運んでみた。近付くと、そこには人が突っ立って居る事が分かった。さらに近付いた所で、レンは自分の目を疑った。見間違うはずが無かったが、それは―。
自分がそこに居た。
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